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50年間放置されていた「わさび田」を復興! わさびの食文化を未来へつなげるスパイスコントロール室・栽培チームの挑戦

こんにちは。SPICE&HERB COMMUNITY事務局です。

皆さんは普段の食事で、わさびをどれくらい活用していますか? わさびは日本の代表的なスパイスのひとつですが、じつは生産者の担い手不足や気候変動の影響により、年々生産量が減少しています。もしかしたら将来、日本産のわさびが食べられなくなり、食文化が途絶えてしまう可能性も否めません。こうした状況を変えるために、エスビー食品では2024年1月から山梨県道志村にかつて存在した、わさび田の復興にチャレンジしています。

「自然の中にあるわさび田で、さまざまな方法を試すことにより、わさび栽培の課題解決に役立てたい」と語ってくれたのは、スパイスコントロール室 栽培チームのリーダーである宮田 雅大さん。50年間放置されていたわさび田を復活させるまでの道のりや、わさび栽培の裏側についてお聞きしました。

<プロフィール>

エスビー食品 開発生産グループ
スパイスコントロール室 栽培チーム担当
リーダー 宮田 雅大(みやた・まさひろ)さん
メーカーでの研究開発の業務経験を経て、2022年にエスビー食品株式会社に入社。現在はスパイスコントロール室に所属し、わさびや赤唐辛子など香辛料原料の栽培試験に携わる。


 わさび栽培の知見を得るために、道志村のわさび田を復興

香辛料の栽培管理・調達・評価・加工までを一気通貫で行っている、エスビー食品のスパイスコントロール室。宮田さんは現在、この部署の栽培チームで各種香辛料の栽培に関わるさまざまな業務にあたっています。その中でも、わさびの栽培試験は重要な業務のひとつです。

宮田さん「栽培チームでは、山梨県にある忍野(おしの)試験農場で、わさびをメインとした栽培試験に取り組んでいます。安定的に栽培する方法や害虫対策などを実際に試し、そこで得た情報やノウハウを蓄積し活用することで、持続的な原料調達を目指しています」

忍野試験農場ではビニールハウスを活用した、わさびの温室栽培に取り組んでいます。しかし、屋外での試験圃場は少なく、生産地により近い環境で試験をする場所が少ないという状況でした。そんな中、ある農業関連の展示会をきっかけに、山梨県道志村のわさび田を活用するチャンスを得ることができたのです。

宮田さん「栽培チームのメンバーが、とあるイベントで交流を持った業者の方から、道志村でのわさび田の復興に向けた取り組みについてご紹介いただきました。昔、道志村ではわさびの栽培が盛んだったものの、農家の方の高齢化などにより、わさび田が長らく使われないまま放置されていたそうです。全国的に生産量が減少しているわさびを未来につなげていくために、エスビー食品として何かできないかと思い、今回のプロジェクトがスタートしました」

わさびの生産量が減少している背景には、後継者不足や異常気象による水温上昇など、さまざまな問題があります。また、わさびは栽培が難しい上に、地域によって栽培方法が異なるため、新規参入が難しいことも一因です。エスビー食品は、道志村という生産者に近い環境でのわさび栽培に取り組むことで、栽培方法の伝承に貢献し、将来的にはわさびという食文化を守ることにも寄与できたらと考えています。
 

わさび田の面影のない荒れ地を、約5か月かけて復旧へ

今回のプロジェクトでは、栽培チームの宮田さんをはじめ、スパイスコントロール室から普段、農作業になじみがない社員も有志として多数参加しました。活用する耕作放棄地は遊歩道から、さらに一歩奥に入ったけもの道にあります。50年もの間、人の手が入っていなかったため、土砂や枯れ葉などで一面が埋まっており、かつてのわさび田の面影はまったくない状態でした。

宮田さん「昔は3段に分かれたわさび田だったようですが、土砂などの影響で段差はなくなり、ただの斜面になっていました。かろうじて、わさび田を囲んでいた石組みだけは残っていたので、この範囲がわさび田だったんだろうという目星だけはつけられました。しかし、周りに木が生い茂っていて日光が入らないなど、全体的に手を入れなければならない状態で、ほぼゼロからのスタートでした」

【BEFORE】2024年1月時点(わさび田があったとは思えないような荒れ地だった)
【AFTER】2024年4月時点(プロジェクトメンバーの手で見事に美しい状態に)

わさび田は山間部にあるため、車では入ることができません。まず、周囲の木々を間伐(木々を間引く作業)し、伐採した木は手作業で運搬。わさび田から取り除いた土砂なども一輪車に乗せ、山中のでこぼこ道を何往復もして運び出しました。

宮田さん「わさび田の土壌は、底から大きな石、小さな石の順に積み上げられ、その上には作土層(土と砂利が混ざった層)が重なっています。この構造によって、水がわさび田全体に広がりながら下に浸透することができ、わさびの根が大きく育ちます。しかし、当初は土や石の間に、木や枯れ葉の細かい粒子が詰まっていて、水がわさび田全体に均一に広がらない状態でした。そこで、わさび田専用の鍬(くわ)で耕しながら、動力ポンプで水を流すことで、不要なものを少しずつ取り除いていきました。水で洗い流し過ぎると、わさびが育つための栄養を保持する土壌まで失われてしまうので、良い塩梅を見つけるのに苦労しましたね」

すりおろして食べる部分は、じつは根茎(こんけい)と呼ばれる茎の部分。根茎から生えた根が作土層やその先の石の部分まで伸びて成長していきます。

わさびの生育にはきれいな水も欠かせないことから、水路を作り、近くの川から水を引き込む試みも実施。手探りの作業が続きましたが、メンバー全員の力を結集し約5ヶ月かけて、わさび田の復興を実現させました。

虫害や病害、動物による被害など、露地栽培にはトラブルがたくさん

2023年12月から作業を始めて、わさび田が形になったのは今年の4月中旬。そこから早速、わさびの栽培がスタートしました。品種にもよりますが、一般的にわさびを種から植えて採取できるまでの期間は約2年。今回はまず、この地でわさびがどのように育つかをひと通り観察することを目的に試験栽培を始めました。収穫は、苗を植えてから約1年半後にできる見込みです。

宮田さん「今年は、季節ごとにどんな虫がやって来るのか、どんな病気が発生するのかといったデータを記録し、来年以降の栽培に活かしたいと思っています。季節によって、発生する害虫や病気が異なるので、今年の傾向を知ることで、来年以降の対策を立てる際の参考になります。また、このわさび田は、同じ沢の水が下流で利用されているため、農薬は使用しません。じつは私は虫が苦手なんですけど、一匹ずつ手で取り除きながらわさびの成長を見守っています」

今後は農薬を使わない害虫対策をいろいろ試しながら、環境に配慮したわさび栽培のノウハウも収集していく予定です。宮田さん「定点カメラなども利用して、わさび田の様子を記録しています。冬になると山の食べ物が少なくなるので、秋ごろから野生動物の侵入が増えるのではないかと予想しています。小動物は柵をしていてもその下を穴を掘って侵入しますし、シカなどの大型動物は2メートルほどの柵であれば飛び越えて、わさびの葉を食べてしまうこともあるんです。次々と起こる問題にひとつひとつ向き合いながら対応するのは大変ですが、あれこれ試行錯誤するのは楽しいですし、やりがいも感じますね」

わさび栽培はマニュアルがほとんどなく、栽培に関する知見も他のメジャーな作物に比べて少ないため、関連しそうな文献を参考にしたり、取引先の産地の方と意見交換を行ったりしています。こうして地道に、さまざまな方法で情報を集めながら、実際に試験栽培を通じて知見を積み重ねていくことが、わさびの栽培方法を確立するための確実な一歩となります。

道志村での取り組みをきっかけに、わさびの魅力発信につなげたい

わさびは冷涼な気候を好むと言われており、温暖化が進む昨今では、特に夏の水温上昇による生育不良が大きな問題となっています。わさびの生育不良が続くと、わさびそのものが出荷できないだけでなく、翌年以降に使うわさびの種子の準備にも悪影響が出てしまい、わさびの生産自体が安定しなくなってしまうという負の連鎖に、多くのわさび生産者が直面しつつあります。

宮田さん「多くの農作物は気候変動の影響を大きく受けており、近年その変化が著しく、対策に苦慮している状況です。わさびも同様ですが、自社のわさび田があれば様子を見ながらさまざまな試験を実施できます。関係先が抱えている問題を少しでも解決するべく、できることからチャレンジしていきたいですね。また近年、生産量が減少傾向にあるわさびにとっては、安定的に生産できる方法や、同じ面積でたくさん収穫できる方法の確立も大きな付加価値になるのではないかと感じています」

道志村の取り組みを社内リリースすると、社内から賛同の声が多く集まり、「ぜひ自分も見に行きたい」「道志村のわさびを原料にした製品を作れないか」などの意見も届きました。その後は社外リリースもされ、さらに多くの社員からの関心を集めるように。

宮田さん「試験専用の非常に小さな畑なので、さすがに製品の原料にするのは難しいのですが、いろんな方に注目していただけるのはうれしいですね。わさびは日本原産のスパイスで、和食との親和性が高く、日本人のDNAに刻まれた貴重な食材のひとつです。この文化を大切に守っていくことは、商品としてわさびを原料に扱う食品メーカーとしての使命だと感じています。今後も積極的に情報を発信し、社内だけでなく、より多くの方々に私たちの活動を知っていただき、わさびの魅力を再発見してもらえたら、さらに意義のある取り組みになると思います」

わさびの栽培地は全国的に限られており、ほかの野菜と比べると、一般の方の目に触れる機会は少ないのが現状です。また近年では、日本人のわさび離れが進んでいるとも言われています。この記事をきっかけに、コミュニティメンバーの皆さんもぜひ、わさびに注目していただけたら幸いです。


 

本わさびを使用したエスビー食品のチューブ調味料。贅沢な風味と香りをお楽しみいただけます

 

■宮田さんから、SPICE&HERB COMMUNITYメンバーへの質問

お刺身につける以外で、わさびの活用方法やおいしい食べ方があったら教えてください!

「私はわさびを醤油に混ぜて、市販のチーズをひと晩漬けてから食べています。わさびのピリッとした刺激と香りを感じられておいしいですよ」と宮田さん。わさびといえばお刺身につけるイメージが強いですが、さまざまな食べ方を試してみると、食の楽しみがもっと広がるかもしれませんね。

皆さんのアイデアもお待ちしております!

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50 件の返信 (新着順)
たか125
2025/03/11 06:56

ワサビは、お浸しなどに入れても美味しいのでいつも使っています。

ruki
2025/03/05 23:33

ためになった!

つぎもっさん
2025/03/01 05:54

勉強になりました。

みさじい
2025/02/25 14:49

グーです。今晩は、マグロをワサビでいただきたいです。

ぽんで
2025/02/17 23:24

ガンバレー

ぽんで
2025/02/13 23:22

わさびのふりかけがあればいくらでもご飯が食べられます

つぎもっさん
2025/02/02 01:24

勉強になりました。

みく
2025/01/30 17:40

家にあるチューブタイプのもので、わさびが一番使用率が高いかな。
綺麗な水がわさびを育てるのに必要だということは存じておりました。
荒れ地になってしまったわさび田を復活されることは、並々ならぬ努力があったと思います。
1度生わさびをすりおろしていただきたいものです。

ばにらさん
2025/01/14 21:12

わさびが大好きな海外の友人がいるので、わさびの知識を深めることができて嬉しいです!
宮田さんのご活躍ぶり!これからも応援させてください!

初めまして…宮田さん
キャプション読んで復活するまでもとても何度も何度もご苦労、大変だったと思います。綺麗な水がないと育てられず日本産と言うものがどんどん失われていることがホントに悲しくかんじます。荒れ地だったものをよくぞここまで復活させたと拍手ものです。もっともーっと大きな声で言っても良いです。

わさび、お刺身はもちろんのことお蕎麦やパン、ソースなどにもつかったりするだけじゃなく、するだけじゃなくスライスしたり薄く千切りにしてサラダに入れたり薬味のトッピングに使ったりしてますが生わさびの使い方をどんどん伝えていくことも必要だと思います。

野菜などもそうですが丹精込めて育てて食べれるようになるまで込みの時間も
消費者は考えていかなければならないと
おもっています。わさび田の復活、お話
を聞いて見学会、お手伝いなどあったら自分の目でみてみたいなと思いましたし生わさびのおもいがこれから広がってくれること願っています。